比較生産費説が教えるように、自由貿易は原理的には全ての貿易当事国にとって貿易をしない場合よりもメリットになります。
しかし、どの国も歴史や伝統や圧力団体を抱えているので、ほとんどの国が関税やその他の貿易障壁を設けているのが現実です。
自由貿易でデメリットを受けると感じている人や企業(たいていは生産者)は圧力団体を形成して政治家を突き上げるが、メリットを受けると感じている人(たいていは消費者)の声はそれほど大きくはならないから政治家もあまり耳を傾けない。
それでも、自由貿易を進めようという国際的な取り組みが何十年も続けられてきた。
WTO(世界貿易機構)には百数十か国が加盟して自由貿易の促進に取り組んでいるが、関係国が多いので利害調整に時間が掛かってなかなか合意ができない。
これではらちがあかないというので、少数の国の間で互いに自由貿易を進めるFTA(自由貿易協定)や、貿易に限らずサービスなどの分野の障壁の撤退も進めようとするEPA(経済連携協定)の取り組みが始まった。
環太平洋パートナーシップ(TPP)協定もEPAのひとつで、オーストラリア、、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、米国、ベトナムの12か国が多国間の協定作りを進め、2015年10月に12か国が大筋合意に達した。
その後、トランプ大統領のアメリカがTPPからの離脱を表明して先行きが危ぶまれたが、残る11か国が協議を進めて、2018年3月にチリで新協定の署名式が行われた。
アメリカ離脱後の各国の合意の取り付けには日本が大きな役割を果たしたといわれている。
新協定の正式名称は「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定:CPTPP」だが、TPP11(イレブン)という通称も広く使われている。
TPPは新規加入を歓迎しているので、参加国は更に増える可能性がある。
TPPの対象は広範囲に及ぶが、貿易については、自由貿易を進めよう、保護貿易の制度はなくしていこうというのが基本方針だ。
よって、どのTPP参加国も、輸出業者にとっては相手国の保護が無くなったり減ったりするので嬉しいことだ。
各国の消費者にとっても輸入品が安くなるといるメリットがある。
反対に、輸入関税などで保護されてきた国内業者には厳しい内容になっている。
日本の場合は、自動車メーカーにとっては朗報だ。
カナダなどへの自動車や自動車部品の輸入関税が引き下げられたり撤廃されたりするので、日本からの輸出がしやすくなる。
日本は食料輸入大国だが、日本はコメの輸入を増やし、牛肉や豚肉、乳製品などの関税を段階的に引き下げることになった。
輸入食料品が安くなれば消費者の家計は助かるが、保護されてきた農業関係者は苦労が予想される。
トランプ大統領のアメリカが離脱したのは、国内の雇用を守るためというのが建前だ。
確かに、日本やメキシコからの輸入自動車がTPPのおかげで安くなればアメリカ国内の工場労働者は減る可能性がある。
一方でTPPによって輸出がしやすくなったはずのアメリカ農家にとっては離脱は困ったことだ。
そこでアメリカは代わりに各国に二国間FTAの締結を持ちかけてくるという観測がある。
日本にも打診があったようだ。
多国間の協定では大国アメリカといえどもわがままは通しにくいが、二国間協定なら優位に立てるといる目論見もあるだろう。
日本としてはアメリカがTPPに再加入してくれるのがベストだが、二国間協議に持ち込まれた場合は、アメリカに押し切られないようにしっかりと交渉しなくてはならない。
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