貿易赤字が損、貿易黒字が得というわけではない。
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黒字を喜ぶのは昔の「重商主義」
財政赤字が嫌われて黒字が好まれるのと同じように、たいていの人は貿易赤字を嫌い、貿易黒字を好む。
自分の国に黒字がたまったり金の準備高が増えたりすると、国力が増したような気がします。
しかし、貿易黒字や金の準備高が国力をあらわすというのは「重商主義」といって、主流派経済学がはるか昔に捨て去った考え方なのです。
16世紀の中頃、スペインはインカ帝国を滅亡させるなどして中南米から大量の金を略奪してはせっせと国内に持ち込んだ。
すると何が起こったか。
インフレ(物価上昇)だ。
モノやサービスの供給が増えないのに貨幣(金)が増えると、起こるのはインフレと相場が決まっています。
むしろ当時は小国とみられていたイギリスの方が、その間、生産力の増大に成功して、のちにスペインをうちまかして世界の覇者へとのし上がって行った。
富国とは貨幣や金ではなく、人間によって生み出されるモノやサービスなのです。
貿易赤字の方が経済が活発という見方もできる
アメリカのトランプ大統領は日本などに対する貿易赤字を問題視しています。
アメリカを貿易黒字国にするのが目標らしいです。
しかし貿易黒字を目標にすることは経済政策の目標としてはふさわしくありません。
貿易収支は自動車や小麦粉などの財(モノ)の輸出入の話だけれども、現代はサービスや金融の国際間取引のほうがむしろ活発なので、これらもふくめた経常収支を物差しにすることが多いです。
だから財(モノ)の貿易に限定せず経常収支に拡張して説明する必要があるのです。
財(モノ)やサービスの取引を国内だけに限定するよりも、国境をまたいで自由に取引したほうが関係するすべての国が豊かになれるのです。
自由に取引(貿易)した結果として赤字になる国もあれば黒字になる国もあります。
国内で生産供給する以上に国内需要が旺盛な国は外国からたくさん輸入するので赤字になるのです。
逆に国内で生産するよりも需要が少ない国は黒字になるのです。
どちらかといえば、需要が旺盛な赤字国の方が経済が活発だとみなすこともできます。
どこかの国が経常収支を黒字にすることを企んだら何をすればいいか。
単純にいえば、財やサービスの輸出を促進して輸入を制限すればよいのです。
例えば、海外旅行をすると海外で宿泊費や食事やお土産代を支払うので、経常収支にとっては輸入と同じ効果があります。
だから国民の海外旅行を制限すれば経常収支は黒字に傾きます。
あなたはそんな国に住みたいでしょうか?
また当然ながら、世界各国の赤字と黒字を合計すればゼロになります。
どこかの国が黒字になったら、必ずどこか赤字の国が出るのです。
すべての国が経常収支の黒字を目標にした経済政策をとったら、輸入制限競争になって、世界経済はひどく沈滞してしまうでしょう。
具体的には、世界から貿易や海外旅行者が減ってしまいます。
世界中の国が活発に貿易をすることが各国の経済を活発化するのであって、結果的に黒字だったり赤字だったりしても心配することはないのです。
実際、21世紀に入ってからアメリカやイギリスの経済収支はだいたい赤字が続いていますが、どちらも高めの経済成長を維持しています。
貿易収支や経済収支について黒字や赤字という用語を使うのは誤解のもとだからやめた方がいいかもしれません。
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